
外観は右写真になりますが、さすが年を経ただけあって、みすぼらしく、電池の液漏れも甚だしく、まさに本物のジャンクでありました。
正面下部には KS-555 DIRECTION FINDER 会社名は Koden Electronics Co., Ltd とあります、この会社は「株式会社 光電製作所」で、現存します。プロフィールによれば、「旧海軍技術研究所と、電波運用の中心的役割を担った逓信省および国際電気通信株式会社の技術者たちが集まって、昭和22年/1947年に創業」とありますので、血統正しい会社なのでしょう。

ただ本体上部(左写真)に360°回転可能なアンテナがあり、これを動かすことで電波の飛来する方向を知ることができるのです。

上写真はアンテナ部分の裏側ですが(何本かのビスが取れて本体との接続金具がぶらぶらになっていました)、細長いフェライトに電線がぐるぐると巻きつけてあるのが、アンテナ本体です。


冒頭の映画のシーンは自艇が房総沖にあることを確認した場面ですが、たとえばあらかじめ地図上に送信所の位置が記されており、かつ其々の周波数かわかっていれば、左図のように位置の測定が可能です。(もちろん方位磁石で電波方向探知器の真北を合わせておく必要があります)
GPSでたちどころに位置情報がcm単位で得られる今と違って、当時はこのような手段が最新技術だったのでしょう。
この器械は主となる中波帯(520 - 1.600 kHz)に加えて、長波帯(150 - 400 kHz)、マリンバンド(1.6 MHz - 4.6 MHz)を受信するようになっていますが、現在ではそれらに対するサービス(たとえば長波のロラン局)は廃止されてもうありません。
さて前置きはこれくらいにして、この器械のリペアをせねばなりません。
右写真は下カバーを開けた状態を示していますが、この時が一番緊張します。なぜなら稀に中の部品がなかった(一部または多くの)、、、とか、汚れや腐食で見る影もない、、、などのケースもないわけではないようなのですから。

とくに受信機の場合、中央部に見られるバリコン(可変コンデンサ)の汚れ具合が一番気になりましたが、思いのほか綺麗でホッとしました。
構造を観ると、防水・防食設計にはなっていませんが、バリコンをはじめ、部品面がすべて下向きになっており、この点ホコリ対策にはなっています。中波の到達距離も200km程度ですので、この機器は沿岸を走るお金持ちのヨットやクルーザで多くもちいられたのではないでしょうか?
こちらは取り出したRF(高周波)ユニットです。なんと2SB350というゲルマニウム高周波トランジスタが3本使用されています。
高周波1段増幅で、局部発振は独立しており、中間周波数は455kHzです。
前述の長波、中波、マリンの3バンドはスイッチで切り替えるようになっています。またマリンバンドではクリスタルを3個使えるようになっており、調べたところ 2637kHz、3093kHz、3193kHzの3本で今もネットで入手可能です。(局がないので挿しても何も聞こえない?)
とりあえず動いているようなので、清掃のみしてコンデンサの交換は必要に応じ後程としました。
右はIF・AFユニットですが、液漏れの影響を受けてプリント基板の銅箔が腐食して無くなって」いる部分がありました。前ユーザが修理した形跡がありますが、そののちも腐食は進み、配線も何箇所か断線していましたので、クリーンアップ、再配線したのが右下写真です。
トランジスタはゲルマニウム高周波トランジスタ2SA12が5本(IFおよびSメータ)使用されています
AFは2SB75、2SB77、2SB89(2本)とこれもゲルマニウムタイプです。

電池は単1乾電池を6本(9V)使うようになっていましたが、液漏れ腐食でターミナルは全滅でした。
手持ちのリン青銅などを使ってリペアした結果が左写真です。

パーツをバラバラにして清掃していく過程で、面白いものを発見しました。
前述のフロントパネル下部のプレートを外したらフロントパネルに直接印刷した別のロゴがありました、Bendix DIRECTION FINDER NAVIGATOR 555 です。

あとは各コイルの再調整をしてそこそこの感度を出すことができました、左写真は出来上がりの姿です。
実際に使用してみての感想ですが、長波は実用になりませんし、マリンバンドも3925kHzのラジオ日経が受信できましたが、バーニア機構無しでは実際には使えず、クリスタルを使うようになっているのが理解できました。

今から50年以上も前に堀江謙一氏がヨットに搭載する機材を集めていたとき、ヨット本体が約20数万円だったのに対し、この電波方向探知器は5.7万円、それも半日粘って数百円値引きしてもらったそうで、いかに高価なものであったかが分かります。
この絶滅種に再び命を吹き込んで、少し暗くなった部屋で、遠くのラジオ局を聞きながら当時のそんな事などに思いをはせることができるのは至福と言うにつきましょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿