2020年8月31日月曜日

簡易トランジスタ hFEテスターの製作

 は、前回のブログでご紹介した HP E2373A ディジタル・マルチメータをチェックしている際に、実験用の定電圧電源を壊してしまいました。定電圧電源の出力に、誤って交流30Vをかけてしまったのです。

 古いですが、この定電圧電源はトランス式のシリーズ・レギュレータで、多少重いですがスイッチング式と異なり、ノイズも少なく便利に使っていましたので、急ぎ修理に取り掛かりました。

 







 中身は完全なディスクリートで、トランジスタを初めとして、抵抗、コンデンサなど我々世代には懐かしく、なじみのものばかりです。(右写真)

特に目に見えるダメージはありませんし、メータも生きていますので、トランジスタかダイオードがおかしくなったものと目途を付けました。


 と、ここでトランジスタの良否をチェックする必要が出てきました。hFE (直流電流増幅率)を測定したいのです。

 これまでにも、hFE (直流電流増幅率)測定器は作ってみたいとは思っていましたが、簡単なのでいつでもできる、、、、と先送りしてきましたが今回は必然です。

 hFEは左図に示すように、トランジスタのベースに一定の電流を流した時にコレクタに何倍の電流が流れるかを示したもので、一般的にはベース電流に10uAが用いられるようです。


 今回製作した簡易トランジスタ hFEテスターの回路を右に示します。

 電源には百均でも入手可能(2個で¥100)な9Vの乾電池を使い、小型5Vシリーズ安定化電源用ICである78L05を使っていますが、6Vの出力が欲しいので、GNDピンにSiダイオードを2本入れています。


 次いで、トランジスタ・タイプの切り替えスイッチで、npnタイプ(2SCxxx、2SDxxx)のときにはコレクタとベースにプラス電圧を、pnpタイプ(2SAxxx、2SBxxx)のときにはマイナス電圧がかかるようにしました。
 ベース電流の10uAは540kΩを入れてあるだけですが、場合によってはFETを使って、定電流回路を入れてもよいかと思います。


 コレクタにある100Ωは、この両端に発生する電圧をディジタルマルチメータで読めばそのままhFE値が読み取れるようにするもので、もし120mVであればhFE=120となります。

 回路図で赤く囲ってあるのは、供試トランジスタの脱着を容易にするためのゼロ・プレッシャー・ソケット(右上写真)で、手持ちのものを流用し、トランジスタのECBをそれぞれ写真のように配置してあります。


 それらを小さなプラ・ケースに実装したのが、上写真です。
 ケースの下に2本突き出しているのは、HP E2373A ディジタル・マルチメータの端子に直接差し込んで使うための、バナナ・プラグです。

 右写真がhFEの実測状況です。ディジタル・マルチメータは直流電圧のオートモードにしておけばOKです。
 この例では、2SC373を測定中ですが、規格表によれば、hFEは200~400とありますので、278という数字は妥当なものだと思います。

 ということで、冒頭の定電圧電源の修理に取り掛かりました。
 使用してあったトランジスタは、パワー・トランジスタの2SD414Qを別にすると、2SC372Y2SC2120Y、2SA495の3種類でした。

 測定してみてわかったのは、これらトランジスタのhFEはほぼ200でそろっており、これがメーカー製なのだ、、、、と変なところで感心してしまいました。

 そんな中で、冒頭のプリント基板写真のなかで赤丸で示した、2SC372Y、2SA495の各1本が、158、168のhFE値を示しましたので、hFE200以上のものと交換したところ見事に回復しました。

 これでこの定電圧電源も、もうしばらく愛用できそうです。

2020年8月23日日曜日

HP E2373A マルチメータのリペア

 HP(ヒューレット・パッカード)のデジタル・マルチ・メータ(DMM)を入手しました。

 今時HPの製品といえばパソコンのことを指すようですが、ここでいうHPとは電子計測器のことです。

 ヒューレット・パッカード社は1939年に、スタンフォード大学の同級生だったビル・ヒューレットとデイブ・パッカードによって電子計測機器製造会社として設立されました。
 日本でも合弁会社である横河ヒューレットパッカード社がありましたし、今でも、このHPの電子計測器部門は、アジレント・テクノロジー、キーサイト・テクノロジーと名前こそ変遷していますが、この分野で世界のトップを走り続けています。

 わたしはこのHPの計測器が好きで、何台か所有しています(もちろん新品は超高価なので、中古ばかり)。

 HPの計測器は、その品質はもちろん、詳細な回路図付きのサービスマニュアルが入手しやすいこともありますが、何よりも私自身と同じような時代を歩んできた、という親しみもあります。

 今回入手した、HP E2373A マルチメータは1990年のHPカタログに載っていましたから、30年くらい前の製品でしょう。
 裏側のIDを見ると、10桁の中央あたりにの文字が見られます。そしてその下のラベルに米国特許のライセンスのもとにつくられたとありますので、前述の横河ヒューレットパッカード社での製造ではないかと思われます。

 きわめて安価でありましたので、いささかの不安はありましたが、このデザインが気に入っていましたので、ダメなら文鎮代わりにでも、、、、と入手しました。

 さっそく裏カバーを開けてみると、その造りの見事さに見惚れる間もなく、右下のスパーク跡が目に飛び込んできました。(左上写真は修理後)

 この部分は、10A測定レンジなので、過大電流を流した時に、プリント基板の銅箔が鎔断してしまったのでしょう。

 結果的には、10A測定レンジのみ独立回路になっており、銅箔がフューズのように瞬時に?鎔断したのは、本体部分にはダメージを与えない、絶妙な設計であった、、、、と勝手に感心してしまいました。

  右上写真の左は修理前、右は溶断した部分を銅箔テープで補修した修理後です。

 左写真は10A測定レンジに定電流電源から2.83Aを流してみた結果です、うまく働いています。

 他のレンジも特に問題なく、作動しているようなので一安心です。

 以前このブログでも紹介した、My基準電源(簡易電圧標準の製作)を利用して応答を見てみました。回路図を示しておきます。

 4,095Vに対して、4.08Vの表示は誤差-0.37%ととなり、規格の0.7%を As Is で満足していました。

 今回のHP E2373A マルチメータは今時のそれに比して、機能も精度も劣っています。

【表示桁】3 1/2
DCV300mV1000V
ACV3V750V
DCA30mA10A
ACA30mA10A
OHM300Ω~30MΩ
確度: 0.7%(DC測定)1.2%(AC測定)0.7%(抵抗測定)

 しかしながら、その使いやすさと、使っているときの気持ちのよさは何物にも代えがたいものがありますので、今後座右においておくつもりです。

精度などのチェックは、写真の兄貴を基準にして校正してやればいいと思いますし、また校正が容易にできるようにこのマルチメータは設計してありました。