2020年5月31日日曜日

ACプローブにHP-410C が付きました

 左の写真は、今から4年前の5月に、私のブログに投稿した、「私のジャンク箱から(1) HP 410ACプローブ」で紹介されている、HP410用のACプローブ(MODEL 11036A AC Probe)です。

 本来はHP410 Voltmeter (下写真はHP社のカタログより)で使用すべきものなのですが、手元になく、不遇をかこっていました。

 ところが最近になってふとしたことからこの本体が入手できました。保証なし、ジャンク状態ということで、全体はホコリまみれでメータ・パネル面はコーティングが剥がれかかっており、測定ケーブルもドロドロで、右写真とは雲泥の差でありました。

 今回やってきた HC410C は HC410 シリーズの最後のモデルで、最も洗練されたものです。少し調べてみるとシリアル・ナンバーにYの文字が入っていることと、電源トランスの入力がAC100Vのみであることから、1963年に創立された河ヒューレット・パッカード株式会社の製品で、1965年ころのものであることが推測されます。

 早速ネットから左のマニュアルを入手して勉強開始です。
 メーター面のコーティング剥がれが起こるのは初期のものらしいので、マニュアルもそのように選択しました。








 右図は心臓部にあたるチョッパー増幅器です。
 この部分は直流増幅器なので、当時の技術ではドリフトがなかなか抑えられず、我々の若き時代によく使ったレコーダーや、センサーの増幅器にもいろいろなタイプのチョッパーが使われていたのを思い出します。

 抜き出した回路図には真空管(12AT7)1本とPNP型ゲルマニウム・トランジスタ 2本を用いているだけで、今なら低ドリフト・FETオペアンプ1個で簡単に形成できるものと思います。

 キモは橙色で示した四角部分のチョッパー素子の生死です。ネオンランプの断続光をCDSセンサーで感知するタイプなので、暗くして観察してみました。

 ケースの上板を外し、部屋を暗くして短時間だけ通電してみたのが左写真です。中央に2個並んだ光チョッパーの色を見て、思わず安堵しました。他の回路なら何とかなりましょうが、チョッパーの故障はいささか難物なので、、、、

 上下左右のパネルをすべて外し、内部の清掃を行った後(クモの巣もありました)、の下面の写真を右に示します。

 ここは電源部です。基板に差し込んであるコネクタのバネ力が弱っていますので、上写真の右下のように、チェックの結果によっては直にはんだ付けする必要があります。

 改めて通電し、しばらく様子を見てから、電圧チェックを行いました。

 上写真の中央部のGNDをベースに、7ヶ所の電圧を測ります、表記に近い数字が出ればいいでしょう。入手時の外見に反し、比較的正しい電圧が出ていたのにはいささか驚きました。さすがヒューレット・パッカード!! (この製品が出てからすでに60年近くたちますが、今ではヒューレット・パッカードといえばパソコン名でしか知られていない時代に変わっています。)

 右写真は、上から見た様子です。カードが2枚抜いてありますので、そのソケットが見えています。









 左がそのうちの1枚で、先にチェックした、チョッパーが搭載されている、メイン基板です。チョッパーが上部にあり、そのすぐ下にシールドケースを被った真空管 (12AT7) があります。


 下写真がもう1枚の、各種レンジのキャリブレーション基板で、半固定ボリュームがたくさんついています。


 前述したように、測定用のリード線などもかなりな劣化が見られますし、DCV 用のテスト棒はオリジナルとは異なり、中に入っているはずの1ⅯΩの抵抗もありません。







 さっそく手持ちのテスト棒を探し出し、1ⅯΩの抵抗を直列に入れました。

 この抵抗は回路図にもはっきりと示されているので、なぜ省略されていたのかは理解できません。








 このモデルでは、リード線が本体直付けになっています。これは功罪あると思いますが、左写真のように、長年の使用に耐えかねて、切れかかっています。
 少し短くなりますが、再度取り付けなおしました。


 このような電圧計の信頼性は、増幅器もさることながら、横パネルを取り去って見える、ロータリ・スイッチと各種の分圧抵抗だと思います。

 ロータリ・スイッチにはステア・タイトがつかってあるようですし、この部分の抵抗器はすべて誤差1%のもので当然ですが、60年近くたってもほとんど狂いが目立たないのはさすがです。さらに数回スイッチを回すことでいわゆる接触不良はほとんど感じません。

 また配線はいい加減のように見えますがたぶんノウハウのカタマリなのでしょう。(写真右上)

 左写真は前述のメータ・パネルで、劣化した表面こーてぃんげが剥がれて浮きあがり、メータ指針がところどころひっかっかる状態です。

 幸いにも目盛や文字はコーティングの下にあり、写真のように刷毛でなぞってやることでかなり除去できました。色のムラは私のシワと同様に長年の勲章ということで、、、

 注意:決して水をつけてこすってはいけません、印刷が消えてしまいます!!

 このメータを分解する際に、左写真のようなシールを発見しました。(破いてから気が付いた)
 これによれば、メータの一つ一つに校正しながら目盛った、、、、ということらしいです。なるほど、そういった時代だったわけです。



 あとはマニュアルに従って、簡単な校正をを行ってしばらく通電し、エージングをしてみました。

たまたまこの個体がよかったのか、かの時代のヒューレット・パッカードの実力なのか、すべてのファンクションにおいて、ゼロ点はほとんどドリフトしませんし、レンジを切り替えてもゼロ点と測定値のズレもほぼありません。

 テスト棒、クリップ(昔の面影に免じて交換なし)、ACプローブがようやくそろいました。


 右写真は、パワースイッチです、オンになれば内蔵のネオンランプが点灯して一目でわかりますが、ランプが故障した時も押しボタンに印刷された模様でわかるようになっています。
 こういったギミックが私は好きです。

、、、、ということで、幸運にもACプローブ(MODEL 11036A AC Probe)とペアになるべき HC410C が入手でき、状態も上々となりました。

 とはいっても性能ではいまどきの安価なデジボルにはかないません(RF測定を除いて)が、使っての私の満足感は十分なものがあります。当分座右において使ってみましょう。

2020年5月10日日曜日

AR-3000 本当に蘇生しました

 前回のブログAR-3000 蘇生しましたで生き返ったハズのこの受信機を傍らにおいて楽しんでいましたが、不具合が見つかり、完全に修理できたわけではなかったことに気づきました。

 それはメモリ機能が働かなかったのです。
 電源コードを接続した状態で、本体の電源スイッチのみをオフにしたときは正常でしたが、電源コードを取り外して完全にオフ状態にしたあとは、無情にも写真のような初期状態に戻ってしまいます。

 メモリ機能のみがおかしいので、サービスマニュアル(AR-3000A の英語版しかありませんでした)を参考にいろいろ考察してみました。
 このシステムのCPUとメモリは正面パネルの裏側にあります。

 メモリ・バックアップの働きを右図にまとめました。(あくまでも私の解釈で、結果には責任を負いかねます)

 バックアップ時には+5Vは供給されず、Li電池からの3.2Vが逆流防止用のダイオードを経て256kのスタティック・メモリに供給されます。

 このメモリを制御する/CSピンは、アドレスデコーダ 74HC42 の/Y9につながれています。このロジックICの電源も、バックアップ時には3.2Vが供給されていると考えると、ABCD=1001でないかぎり、/Y9はHレベルで、/CSピンにも3.2Vが供給されているはずです。


 それでは、ということでメモリの端子電圧を測ってみました。Vddは3.0Vありますが/CSピンはほとんど0Vでした。

 左のタイミングチャートはバックアップ時のVddと/CSの電圧を示したものですが、これによれば/CSの電圧もVddとほぼ同じく3.0Vある必要があります。ということで何かがおかしい、、、、

 同様なメモリはいくつか手元にありますので、交換を考えましたが、先の図中にで示した10kΩの抵抗で/CS端子をVdd電圧まで強制的にプルアップすることを思いつきました。
 この程度の手当てでは特に回路に影響はないと経験上わかっていましたので、力業にでたわけです。






 上写真がその結果です。狭いところへの見えぬ目での作業とて、いささか乱雑ではありますが、回路てきにはOK!!!

、、、、で、今度こそ本当に蘇生しました。

 やはりメモリ機能が有るのとないのでは使い勝手に雲泥の差があります。手軽に広帯域をワッチできるこの受信機はサブ・レシーバとして愛用していくことになるでしょう。


 今回の、私の独断と偏見の結果は、たまたまラッキーに恵まれたものかもしれません。他の受信機を見たわけでもありませんので、この結果には責任は負いかねますので、念のため。

2020年5月8日金曜日

AR-3000 蘇生しました

ここのところ、ずっと家に引きこもり状態です。時間がたっぷりあるのを前向きにとらえて、古い受信機の修理をしました。

 左が製品写真ですが、このAOR社のAR3000モデルは1988年発売といいますので、約30年以上前につくられたものです。

 この受信機はいわゆる、通信型受信機と呼ばれるもので、100kHz2036MHzをオールモード(ナローFM、ワイドFM、AM、LSB、USB)で完全連続カバーし、400チャンネルのメモリを持った、当時としては画期的な受信機でありました。

 このAOR社は、1978年の創立で、社名は現社長のアマチュア無線局の呼び出し符号(コールサイン)JA1AORより名付けられた、といいますからまさに日本のベンチャーのはしりだと言えますし、現在でも世界のひのき舞台で活躍しているようです。

 さて、我が家のAR3000は電源が接続できません、というのは専用の接続プラグがないからです。
 なければさっそく手持ちのパーツで自作です、、、ということで右写真が結果です。

 指先に見えているのが元々の電源端子ですが、今ではあまり見かけません。


 ついでのことで、アンテナ端子もかなり古びていましたので新品パーツと交換です。
 ここにはM栓ではなく、正規のBNC端子が使ってありました、さすがです。(左)

 ということで、ようやく電源投入の運びとなりました。この時が一番スリリングで、音、におい、発熱、形状変化などがないか五感を最高感度に研ぎ澄まします。

 幸い何の変化もありませんでしたが、残念ながら受信機も反応がありません。

 この段階は、この機種で一般によく知られている、メモリ・データをバックアップする電池の消耗が最初に思いつきます。

 チェックの結果、すでに腐食が始まっている危ない状態でした。他の例でよく見られるように、私も電池ホルダーを取り付け、次回の電池交換が楽にできるようにしておきました。電池はコンピュータなどでよく使われる、百円玉によく似た、CR2032というリチウム・イオン電池です。(右写真)

 再度、電源投入です。
 スイッチを押したあと、瞬間的に反応がありますが、すぐに無反応になってしまいます。

 ここからは経験に沿って順次チェックしていきます。幸いなことに、電源回路のチェック時に異常を発見しました。

 AR3000の電源ラインは、12Vを入力し、次いでこれを9Vに降圧し、さらに5Vに降圧します。
 異常のあったのは9Vから5Vへ降圧するとき、2V程度しかありませんでした。
 ここには3端子レギュレータの定番である78M05 が使ってありましたが、M タイプは 0.5A の能力しかなく、放熱フィンのないモールドタイプだったので左上写真の左側にあるように、取り外しました。

 そして右側のように、放熱フィンがあり、かつ能力が 1.5A ある L7805CV を採用し、さらに小さな放熱板をつけておきました。この3端子レギュレータ4Ⅴx 使用電流 の発熱がありますので、しっかりと密閉された筐体と相まって熱劣化を起こしたものと思います。

 ここで再再度の電源投入で、お待ちかねの初期画面が現れました、めでたしめでたし、、、、です。

 左写真は、エアー・チェック中の蘇生した AR3000 です。
 コンパクトさ(手のひらより一回り大きいサイズでどっしりとしたもち重み)と簡単な操作性(慣れたのちの)、そして前述した「100kHz2036MHzをオールモードで完全連続カバー」という高性能は30年たった今でも十分実用性があると思います。ちなみに、いい加減なわたしの測定では、100kHz1040MHz受信範囲で 1uV 以上の感度がありました。

 もちろんフィルター特性など、個々の性能について言えば議論は尽きませんが、、、、、

 蛇足ながら、AR3000 の直後にAR3000A がでており、AR3000 の生産台数は少なく、希少価値もあったりして、、、、


こののち、さらなる修正点が見つかりましたので、続編を追加しました。

   AR-3000 本当に蘇生しました   ( 2020 5 10 )