2017年1月23日月曜日

私のジャンク箱から(2) ANRITSU製 ATTユニットの解析と実用化

 先日手持ちの部品を整理していたら写真のようなものが出てきました。
 これはANRITSU製 ATT ユニットで、かなり以前に入手しそのままになっていたものです。大小小あり、どちらもTTLによるドライブ基板が付属しています。

 ATT(アッテネータ Attenuator )とは「可変抵抗減衰器」とも呼ばれ、信号を適切な信号レベルに減衰させる部品です。

 SMAコネクターが使われているところからGHzオーダーまで使用可能と推測され、うまくシステムを仕上げればかなりよいものになるだろうことが予想されます、ただ壊れていなければの話ですが、、、、






 この部品の素性を知ろうとネットでいろいろ調べてみたのですがわかりません。精密な部品なので分解したくは無かったのですが、せめてカバーだけと思って中を見てみたのが左写真です。

 流石は創業120年を誇るアンリツ株式会社(ANRITSU CORPORATION)の製品で見事なできばえです。

 早速テスターと+9V(定格は12V)電源を使ってざっと調べてみました。リレーの直流抵抗は約265Ωでユニットアッテネータは小さいほうが4段、大きいほうが5段あって右側のリレーが減衰なし、左側のリレーが減衰ありでした。(下図)

 各ユニットアッテネータの左右2つのリレーは必ずどちらかが通電されている必要があります。

 右図は私が理解するためにおこした回路図ですが真偽のほどは確かではありません。

 右下に使用例として書いておいたように、このままでも+12Vの電源とトグルスイッチをつかって手動のATTを作ることができますが、トグルスイッチを1、2、4、8、10、20、30、30、40dBの9個ならべて必要な減衰量に設定するため数字を足しながらパチパチとやらねばなりません。

 これもまた一興ですがせっかくコントロールボードがあるのですから電子的にロータリーエンコーダを使ってカシャ カシャ カシャ、、、とやりたいものです。

 そこでドライブボードについても調べてみました。
 一般的なロジックICが使ってありましたので解析も容易でした。
 入力はクロック、データ、ストローブを使う典型的な3線式シリアル入力でした。
 左上はデータラインのみ追ってみた図です。(保証無しです)
 74HC14で波形整形されたシリアル信号は74HC4094のシリアル・イン、パラレル・アウトのシフトレジスターによってパラレル信号に変換され、その出力は(上の例ではQP0の1ビットのみ示した)74HC04で反転信号もあわせつくりTD62083のリレードライバーでリレーを作動させる、というものです。
 反転信号をつくりだすことで必ずどちらかのリレーが通電されている状態になっています。なるほど測定器のような高信頼性が必要な場合はこのような簡単明澄で堅実な設計がされていたのかと感心しました。

 ということでこのアッテネータをコントロールする回路を以前のブログを参考にしながら(AVRによるATTコントローラーの製作)作ってみました。こんな場合はいつものAVR(ATMega328)を使いソフトはarduinoIDE(AVR と Arduino  (2))で開発します。

 今回使用したライブラリについて述べておきます。
 まず、表示には7セグメントのLED表示素子を使いますのでarduinoのホームページにある「 Sseg 」と言うライブラリを使いました。少し古いですがいろいろ設定できて便利です。

 ロータリー・エンコーダで数値を決めるのですが、その際1の桁と10の桁をSTEPボタンで選択しますが、その表示にドット・ポイントを使うことにしました。表示素子を上下反転させれば右上図のようになりOKですが、本来のエレメントの順序がA,B,C,D,E,F,G,DpであるものがD,E,F,A,B,C,G,Dpとなります。

 左写真はその結果で、-132dBを示していますが10の桁の3がロータリー・エンコーダで増減できることを示しています。

ここで問題となるのは ATMega328 で使用できるピンが不足することです。これを解決するためにXtalピン(右図の20、21番ピン)を入出力に使うことにしましたが方法はネットで容易に知ることができます。
 そのため基本の発振は内部8MHzにしています。

 右上に今回 ATMega328 で使用したピン・アサイメントを示します。
   ロータリー・エンコーダ 2、3(割り込みの関係でこのピンを使用)
   7セグメントLEDのエレメント表示 0、1、4、20、21、5、6、7 
   7セグメントLEDの桁表示(C4、C3、C2、C1) 8、9、10、11  
   STEPボタン 12 
   シリアル・データ出力1 A0、A1、A2    
   シリアル・データ出力2 A3、A4、A5
 となりあまったピンは 13 番のみです。

 スケッチの詳細は省きますが、流れとしては
 1. ロータリー・エンコーダで任意の減衰量を表示(今回のATTでは減衰量0から最大145まで可能)し

 2. この数字を1の位と10の位以上に分割し、対応するユニットアッテネータをATT小ATTからそれぞれ選択するようにシリアルデータを作成し、送り出してやります。たとえば85dBと言う値に対して1の位は1dB+4dB10の位以上は10dB+30dB+40dBユニットアッテネータが必要ですのでATTからは1dB、10dB、40dBを選択し小ATTからは4dB、30dBをそれぞれ選択することになります。なぜかユニット・アッテネータがATT小ATTにランダムに入っているので少しややこしいです。

 3. シリアルデータの送り出しにはSPIを使うのがよいのでしょうが2チャンネルでの実験ではまってしまい、時間も無かったので恥ずかしながらシフト・アウト命令2チャンネルでお茶を濁しました。

 4. arduino のスケッチはメインルーチンがループになるので、シリアルデータの送り出しは関数を作ってその都度呼び出すことにしました。

 いろいろありましたがようやく念願のカシャ カシャ カシャ、、、ができるようになりました。
 
 上のデータはシグナル・ジェネレータからの10MHz信号にこのATTを入れAPB-3のスペ・アナ機能でレベル測定をしているところです。
 一番上の0dBから始めてあとはロータリー・エンコーダを回すだけで(ATTの場合は左回しで数値が大きくなるのでした)1dBずつカシャ カシャ と減衰量が変わっていきます、、、、当たり前ですがなぜだか達成感がありました。

 ケース作りはしばらくお預けということでひとまず終わりとします。

2017年1月20日金曜日

未完成交響楽

 新年早々またまた古い映画を観てきました。
 「未完成交響楽」という1933年のドイツ/オーストリア映画です。

 物語は、あのフランツ・シューベルトの交響曲第7(旧8)番である『未完成交響曲』ロ短調D759にまつわる物語(フィクション)を映画化したもので、なぜか本場のドイツとは裏腹に日本での公開(1935)においては好評で名画とたたえられたようです。

監督と主な出演者は次のとうりです。

監督    ウィリー・フォルスト
出演者
ハンス・ヤーライ   シューベルト
マルタ・エゲルト   カロリーネ(公爵令嬢)
イーゼ・ウルリッヒ  : エミール(質屋の娘)

 冒頭映画の題名を「未完成交響楽」と紹介しましたが、原題はLeise flehen meine Liederと言い、これはシューベルトのセレナーデ(Ständchen)の歌詞の最初のフレーズそのものです。

Leise flehen meine Lieder
durch die Nacht zu dir;
ひめやかに闇をぬうわがしらべ

in den stillen Hain hernieder,Liebchen, komm zu mir! 
静けさは果てもなし来(こ)よや君

 右は映画の冒頭に出てくるタイトルです。バックにあるウィーンの遠景がなかなかいい感じです。


 あらすじは「質屋通いをするほど貧しい助教師で作曲家でもあるシューベルトが、侯爵婦人のサロンでピアノ演奏を行ったのをきっかけに姪の伯爵令嬢の家庭教師になり、やがて2人は恋に落ちるが、親の反対で彼女は軍人と結婚することになってシューベルトは失恋する、、、、」というものです。

 左は教室で数学を教えているシューベルトが我知らず黒板に「野薔薇」を作曲して、これを生徒たち(ウィーン少年合唱団)が歌う、、、、と言うシーンですが、遥か昔教科書で見たシューベルトにそっくりで驚きました。

 ハンガリアの伯爵邸へ音楽教師として招請されたシューベルトが令嬢に真面目にレッスンするシーンで、ここで歌われるのが題名となった「シューベルトのセレナーデ(Ständchen)」です。

 ただこの楽譜には「愛らしき質屋の少女に捧ぐ」とあり、彼女は少々おかんむり、、、、そしてこののち二人は恋に落ちていきます。

 このシーンは村祭りの日、酒場にいるシューベルトのところへ村娘に扮装した令嬢が現れ、ハンガリー・ジプシー風の曲を歌い、踊りする場面です。

 ここで歌われた歌の題名はわかりませんでしたが、この映画のために作られたとのことでシューベルトの楽曲で埋め尽くされている中で負けず・劣らず・すばらしく、強く心に残りました。


 そしてもうひとつ、広大な麦畑の中で二人が愛を確かめ合うこの有名なシーンはある意味クライマックスで、こののち二人の様子を知った父伯爵の意思によって悲しい別れとなって行きます。

 こののちウイーンに戻されたシューベルトの悶々とした日々、これを何とかしようとする質屋の娘、そうした中ハンガリアから女性の手による「急ぎ来られたし」の手紙を受け取ります。そして駆けつけた彼が見たのは伯爵令嬢の結婚式でした。

 手紙は伯爵令嬢の妹からで、話を聞くと、披露宴の席でかつて伯爵令嬢がシューベルトのピアノ演奏中中断した交響曲のモティーフ披露宴であらためて全曲演奏してほしいと言うのです。

 彼は快諾し、演奏を開始しますが、曲がかつてと同じところまで来たとき、彼女は悲嘆のあまり失神し、またしても演奏は中止のやむなきに至りました。

 そして彼はスコアの残りを破り捨て、左シーンのように書くのです。

 Wie meine Liebe nie zu Ende gehen wird, so soll auch diese Musik nie zu Ende gehen  『 わが恋の終わらざるがごとくこの曲も終わらざるべし 』

 この映画は全編に「未完成交響曲」「菩提樹」「野薔薇」「セレナーデ」「アヴェマリア」などシューベルトの楽曲がちりばめられ、のちのサウンド・オブ・ミュージックやマイ・フェア・レイディなど音楽映画の原点だとも言われています。ちなみに交響曲と交響楽は同意で日本語の創作者は共に森鴎外だとか、、、、

 右はこの映画で伯爵令嬢を演じたマルタ・エゲルト(Martha Eggerthレコードジャケットです。
 映画が終わったあともずっと耳に残っていたほどのすばらしい歌声でしたので調べてみたところ、彼女はハンガリー出身、1912年生まれの女優・歌手でした。(YouTube で歌声を楽しむことができます。)

 古いこのような映画はモノクロで、画面も狭く、そのうえ音声もノイズだらけのモノーラルで、際立ったシーンも無いのにこのように気分爽快になることができるのは何故でしょうか。
 クラッシック映画万歳!!!

2017年1月8日日曜日

AD9833 発振器の製作

 新年明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。

 しばらく電子工作ネタが無かったのはこの「AD9833 発振器の製作」に思ったより時間をとられていたからですが、年を越しようやく完成のはこびとなりました。

 左写真がその作品ですが、まだパネルの文字などが入れてありませんのでのっぺりとした感じです。100x80x30と比較的コンパクトです。

 事の起こりは過日のブログ「LA1600 による7MHzSSBラジオ」に使用するVFOを作るべくいろいろ調べていたところ、AD9833 なるDDS・ICが目に留まったことです。

 このアナログ・デバイス社のICは右図のように外付けパーツがほとんど要らず、制御も同系列 AD9834 と同様でいい、、、、とのことで、そのうえ ebay を探したところ@\300 以下で入手できるということでこのプロジェクトがスタートしたのです。
 
 AD9833 を入手後 ARDUINO を使用し、ネットで公開されているスケッチで制御を試みた結果うまくいきました。参考のためスケッチを以下に示します。

 作確認用ですが、サイン波、矩形波、三角波が出力でき、応用にも便利です。

 
 



 







 AD9833 は上写真に示すように非常に小さく、補助基板に載せないと手の施しようがありません。



 今回の発振器の全体構想を示します。

 制御はこれも私のブログ「DDSコントローラーの製作」で述べている方法によりましたが、今回 
AVR は ATMega328 を内部発振8MHz で用いていますし、制御コードは AD9834 用を使う必要があります。
 AD9833 に供給するメイン・クロックは標準では25MHz なのですが、手持ちの関係で小型の40MHz OSC を使いました。
  
 DDS 出力周波数はあまり欲張らずに10MHz までとし、12MHz の LPF を入れました。

 あらかじめ シミュレータ( LTSpice )であたりをつけてから実際にテスト回路を組み、APB-3 のネットアナ機能を使いデーターを採ってみました。

 AD9833 の出力は内部で200Ωが既に負荷されているとデーターシートにありました。 

 結果を EXEL でグラフ化したのが右図です。多少うねりはあるものの実測データーとしてはこんなものでしょうか。

 ところでこの LPF に使用したインダクターはaitendoのFM用IFTを使いました。
 
 ピンクコアのこのIFTは2次巻き線が無くインダクタンスは実測で約2.8uHであり、目的の3uH にはコアを少し回すだけで容易に調整可能でした。事前に並列に入れてあるコンデンサー(チタコン)は小ドライバーを入れて割って除去しておきます。

 これは使えそうだ、、、、ということでaitendoを覗いてみたのですがすでに在庫無しとありました。

 今回のもうひとつの狙いは出力レベルです。少なくとも0dBm は欲しいといろいろ調べたのですが、ポストアンプは我々レベルには難しく、多少の高調波歪には目をつぶることとして、USの古い回路の定数を実験によって右に示すようにして用いました。








 使用しているトランジスター 2N5109 は古いですがなかなかのものではないかと過日これも ebay から@\90で入手しておいたものですがモトローラの刻印がありました、よく使う2SC1815(写真下)に比べると TO-39 メタル・パッケージは逞しそうです。

 このポストアンプのために+12Vが必要となり、電源は+5VとOSC 用に+3Vと3種類となりました。(構想図参照)

 左写真は生プリント基板をハンダ付けして作った発振器のベース部分で、左下が電源入力部、右上が出力用BNCプラグです。

 写真の右下に見えるのは AD9833 をマウントした MSOP(10ピン 0.5mmピッチ)- DIP化変換基板がユニバーサル基板に埋め込んである様子です。裏面は必要に応じ銅箔テープでアース面を確保しています。また右上写真はユニットを接続しての動作テストの様子です。
 
 右写真は出力レベルを自作パワーメーターで測定しているところで、1Mhz で+2.3dBm 、10Mhz で+0.5dBm となっておりとりあえず目標達成となっています。

 今後実験に供する際にはレベル合わせのATTや純度を上げるフィルターの併用もその都度必要に応じ考えていきましょう。

 今回の製作で役立ったチップスが2つありました。

 ひとつ目は秋月のロータリー・エンコーダーのツマミに、同じく安価な秋月のボリューム用ツマミを利用する方法です。そのままではシャフトに差し込めませんので、左写真のように6m/m のドリル刃でさらってやるとピッタリ収まります。
 ふたつ目はキャラクターLCDのコントラスト調整法です。通常は右図(a)のようにボリュームを使いますが、(b)のようにダイオードを使う方法もあります。今回は(c)のように抵抗を使いますが、画面の濃度を見ながら抵抗値を決めてやります。
 これはV0ポートがIC内部でプルアップされていることが必要で、すべてのケースで使用できるとは限りませんがほとんどの場合OKのようです。

 新春早々長いブログになってしまいましたが、今年も元気にいろいろアップしていきたいものです。